キーボード配列QWERTYの謎

キーボード配列QWERTYの謎

キーボード配列QWERTYの謎

この本を読むまでアンチQWERTYの論旨は、以下の二つだと思っていた。
1. 配列が非効率的
2. その歴史的理由はタイプライターの構造的な問題
読んでみるともう一つあって、
3. デファクトスタンダードに関する経済学的な説明
そして、2と3に関してはこの認識が間違いであった事を、歴史的資料から説明している。

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微妙な本ではある。
QWERTY配列およびタイプライター、テレタイプ、PCのキー配列の歴史書としてはとても興味深い内容だった。それぞれの具体的な人名、会社名、配列を挙げながら変遷をたどっている。配列の乱立していた時代や、タッチタイピングの誕生、電信における文字コード統一の必要性と配列に与える影響など、参考になる事も多かった。
衝撃を受けた事が一つあって、JISキーボード配列はANSIの規格を元にしていて、現在の英語配列は、IBMの独自規格を元にしていたということ。プログラミングについては英語配列の方が優れているような印象をもっていたが、おそらく偏見だったのだろう。ANSIの規格が英語の効率性を考えなかったとも思えない。
もう一つ、現在流布されている歴史がどのように発生したか、の記述は面白かった。タイプライター中期の、レミントン社による冊子が元となって誤った認識が後世に残り、DVORAK博士とその支持者、経済学者によってアンチQWERTY説が広まったという。
一方で、QWERTY配列が効率的か、非効率的かという点に関しては今ひとつ記述が少ない。僅かに、アメリ連邦政府DVORAK配列への変更を実験したもののQWERTY配列の継続を決定したとある程度。そしてこの実験の有効性には懐疑的な記述がなされている。
本書の最後にアンチQWERTY説に石を投げてほしいとある。上に挙げた2,3については、同意できるが、1についてはどうだろう。

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個人的に、キーボード配列には昔から興味があって、DVORAK、(疑似)親指シフトあたりは試してみた。
今はQWERTY英語配列に落ち着いているが、他の配列にすると複数台のPC使用が面倒だからである。
例えば作家のようにPC一台限定ですむならば、QWERTYはやめるだろう。DVORAKを試したときは、QWERTYのように指が飛び回らなくてよい印象を受けた。ほとんどホームポジションから指を動かさず、手元でごちょごちょやってれば、文章ができる。親指シフトも、ずいぶん効率的だった。他にも、中指シフトの各配列やT-CODEなどがあるようだから、機会があれば試してみたい。
試してみたいとは言うものの、幾つものキーボードと配列を試してみた結果、ことQWERTYに関しては遅くなったような気がする。QWERTYを極めたい方にとっては他の配列など見向きもしない方が良いのかもしれない。

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本に戻る。
文章について苦言が一つ。特にタイプライターの歴史の部分で、固有名詞が多すぎる。例えば

ウィックオフ・シーマンズ・アンド・ベネディクト社は二年前の一八八六年三月に、E・レミントン・アンド・サンズ社のタイプライター部門を買い取り、レミントン・スタンダード・タイプライター・マニュファクチャリング社(Remington Standard Typewriter Manufacturing Company)として独立させていた。
p.86

というような文章が頻出すると辟易する。一回目はともかく、二回目からは略すものじゃなかろうか。
いろいろと不満もあるが、一読する価値はある。参考になった。